D&O保険の保険料に関する課税上の取扱いに変更

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2016年2月24日、国税庁は、会社役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料に関する新たな課税上の取扱いを公表した。すなわち、取締役会の承認等、一定の手続を経たのちに会社が負担した、役員賠償責任保険のうち株主代表訴訟敗訴時担保部分の保険料について、従来は、役員個人に対して給与所得課税を行うものとされていた扱いを変更し、役員個人に対して給与所得課税を行う必要がないことを明らかにした。

日本の会社法上、役員(取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人)は、その職責上善管注意義務を負っており、また、取締役及び執行役については、いわゆる「忠実義務」も負っている。また、その職務執行に関して故意又は(重)過失があった場合には、会社や第三者に対して損害賠償責任を負う。この責任を担保するため、日本においてもD&O保険は近年一般的なものとなってきている(2015年3月時点では上場企業の約9割が加入しているとの統計もある[1])。

もっとも、役員が株主代表訴訟に敗訴した結果会社に対して損害賠償責任を負うような場合に備え、会社が保険料を負担することは、代表訴訟の有する機能(損害填補機能や違法行為抑止機能)が害される恐れがある点で問題があるとされていた(いわゆるモラルハザードの問題)。そのため、D&O保険に加入している会社でも、株主代表訴訟については、普通保険約款から外し、別途特約を結んだ上で会社でなく役員個人に保険料を負担させるという取扱いが広く行われていた。これに対応し、税務上も、通達において、会社が株主代表訴訟敗訴時担保分の保険料を負担する場合には、負担分について経済的利益の供与があったものとして給与所得として扱う旨が明確にされていた[2]。しかし、この保険料の役員負担という取扱いは、役員就任を躊躇させる一因となっていた。

近年日本ではコーポレートガバナンスの在り方が活発に議論されており、現在までに会社法の改正(2015年5月施行)を始めとした様々な取組がなされている。その一環として社外取締役の活用が強く要請されているが、上記保険料の取扱いは、社外取締役の選任を困難にしているとの指摘があり、コーポレートガバナンス強化の阻害要因のひとつとなっていた。このような問題に対応するため、経済産業省内の研究会(コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会)が2015年7月24日に公表した報告書において、一定の条件を満たした場合であれば、株主代表訴訟敗訴分についても会社が負担することに問題がないとの見解が示されることとなった[3]。この条件の例として挙げられるものは、以下のものである[4]

①取締役会の承認を得ていること

②社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全員の同意の取得を得ていること

経済産業省は、上記見解の公表に伴い、今後販売されるであろう、株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する旨の条項を設けない新たな会社役員賠償責任保険の課税上の扱いについて国税庁に照会を行っていた。この照会への回答という形で、今般、国税庁は、上記の条件を満たすものに限り、株主代表訴訟敗訴時担保分についても、会社が負担した保険料を対象取締役らの給与所得として扱わないことを明らかにした[5]


[1] 経済産業省、「委託調査 日本と海外の役員報酬の実態及び制度等に関する調査報告書(H27.3)」http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000134.pdf
[2] 国税庁、「会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(照会)」https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/shotoku/gensen/040120/01.htm
[3] 経済産業省 コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会、「コーポレート・ガバナンスの実践~ 企業価値向上に向けたインセンティブと改革 ~(別紙3)法的論点に関する解釈指針」http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150724004/20150724004-4.pdf
[4]   上記解釈指針は、主に監査役会設置会社について記載していることから、ここにいう条件は、監査役会設置会社に関するものである。条件の記載の前に、「例えば、以下の手続を経ることにより、現行法においても、適法に会社が本保険料を負担することができる。」(11~12p)と前置きがなされていることから、他の場合にも会社の保険料負担が認められるケースがあると考えられるが、それについては明らかにされていない。
[5] 国税庁の回答の対象は、「通保険約款等において株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する旨の条項を設けない新たな会社役員賠償責任保険」であり、これを前提にすると、株主代表訴訟敗訴分を免責する旨の条項が普通保険約款には含まれていない既存の会社役員賠償責任保険が対象外になるのではないかとの疑問が生じ得る。そこで、国税庁の回答では、普通保険約款を変更するまでの間は、現在の約款のままでも適用対象となることが明らかにされている。