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2020年8月26日

オーストラリア外資買収法に基づく決定が日本企業の対豪投資へ与える影響

2020年8月25日火曜日、オーストラリア財務省(Treasurer of Australia)は、2019年11月にキリンホールディングス株式会社(以下「キリン」)が中国蒙牛乳業有限公司(China Mengniu Dairy Company Limited、以下「中国蒙牛」) との間で締結したLion Dairy and Drinks Pty Ltd (以下「ライオン飲料」) の売却に関する取引(以下「本件取引」)が、オーストラリアの「国益」に反するものであるとして、当該取引を禁止する旨の決定(以下「本件決定」)を行った。当該決定を受け、キリンと中国蒙牛は、本件取引を解除する旨の発表を行っている。

ナショナル・インタレスト・テスト(national interest test)とは?

Foreign Acquisition and Takeovers Act 1975 (Cth) (以下「外資買収法」)の下、オーストラリア財務省は、外国からの投資を、それが「国益」(national interest)に反すると判断した場合に、禁止することができる。

外資買収法では「国益」は定義されておらず、国益に反するかどうかという点の判断においては、基本的には外国からの投資は国益にかなうものと推定される。しかしながら、オーストラリア財務省は、以下の要素を含む各要素を考慮し、外国からの投資がオーストラリアの国益に反するという判断に至った場合には、当該投資を禁止することとなる。

  • 国家安全保障
  • 競争法上の観点
  • 税に関するものを含むその他のオーストラリア政府の政策(との整合性)
  • 経済及び社会への影響
  • 当該外国投資家の性質

オーストラリア財務省が今回のライオン飲料の売却に関する取引を禁止する決定に至った経緯の詳細は公表されていない。同様に、外国投資審査委員会 (Foreign Investment Review Board、以下「FIRB」)への申請内容も(その中で主張されている内容を含め)公開されていない。

また、競争政策及び消費者政策を所管する機関であるオーストラリア競争・消費者委員会 (Australian Competition and Consumer Commission)は、今年の初めに競争法上の観点から本件取引についての審査を行い、承認していた。これを考慮すると、オーストラリア財務省による本件決定においては、競争法上の観点からというよりも、外国投資家が中国企業であることや、当該取引が、農業というセンシティブな分野 に関わるものであること、などの事情が考慮されているもの考えられる。

実際、オーストラリア政府はここ数年、この分野をオーストラリアの国益(食糧安全保障など)の観点から重要視する方針をとっており、農業分野に関わる取引にオーストラリア政府による監視が集中している。

また、オーストラリア財務省は、近年、本件決定の他にも、中国の投資家や買収者が関与する取引を禁止する決定を行っている(例えば、香港の長江基建集団(Cheung Kong Infrastructure)によるガス事業者APAグループの買収や、長江基建集団及び国家電網公司(China's State Grid Corporation)によるニューサウスウェールズ州の電力企業オースグリッド(Ausgrid)の(半分の)持分の買収、中国の江河創建集団(Jangho Group)によるヒーリアス(Healius)の買収など)。

なお、外資買収法に基づく審査制度には、2020年3月29日、新型コロナウィルス(Covid-19)による影響への対応という観点から、オーストラリア政府による監視を強化するために暫定的な変更が加えられている。当該暫定的変更により、外資買収法に基づく審査の対象となるすべての取引の基準額(monetary thresholds)が0豪ドルに引き下げられ、その結果、外国からの対オーストラリア投資のほとんど全てが審査の対象となることとなった。これに関してFIRBは、当該暫定的変更は、新型コロナウィルスの影響により業績が悪化したオーストラリア企業が、政府の審査を経ずに、外国企業によって買収されてしまうという事態を回避するためにとられる必要な措置であると説明している。

(暫定的変更の詳細は、こちらを参照。)

本件決定が日本企業の対豪投資へ与える影響

中国は、2019年以来、オーストラリアの石炭、大麦、牛肉、ワインの対中輸出に対して貿易管理上の措置を講じており、中国とオーストラリアの貿易関係も一種の緊張状態が続いている。今後も、中国とオーストラリア間の外交関係が改善するまでの間は、中国からオーストラリア企業への投資案件(特に農業、技術/データ、戦略インフラ、エネルギー、希少鉱物などのセンシティブな分野への投資)は、オーストラリア財務省において特別な考慮がなされることが予想される。

このような状況に鑑み、日本企業においても、中国からの投資が絡む取引案件については、それがセンシティブな分野への投資である場合には、オーストラリア財務省により当該取引が禁止されてしまうリスクに特に留意すべきである。当該リスクは、オーストラリア国内の資産を売却しようとする売主サイドや、外国からの投資を求めるオーストラリア企業においても、考慮されるべきものといえる。

また、中国企業との間で、外資買収法に基づく審査を必要とする取引を行う日本企業としては、オーストラリア財務省から取引を禁止される事態に備えるため、当事者間の交渉力を考慮しつつ、払戻不能の手付金(non-refundable deposit)や解約金(break fee)などの合意を交わすことが考えられる。

さらに、中国に限らず、外国投資家が関与する可能性のある取引については、FIRBと早期の協議を行うことが望ましい。新型コロナウィルスの影響下であっても、FIRBは事前の協議に非常に積極的であり、国益との関係における取引の問題点や検討すべき事項などについて、早期のガイダンスを受けることができる。

新たな外資買収法審査制度

日本企業を含む外国投資家は、オーストラリア政府が公表した、外資買収法に基づく審査制度の改正案に留意する必要がある。当該改正案は、新型コロナウィルスに対応して導入された前述の暫定的変更に取り替わるものとして導入されるものであり、2021年1月に発効する予定である。

改正案の概要は以下のとおりである。

  • 新たに「ナショナル・セキュリティ・テスト」(national security test)を導入し、外国投資家が、「センシティブな国家安全保障関連事業」(sensitive national security business)について、その直接持分(direct interest)、すなわち10%以上の持分又は支配権を伴う持分を取得する際に、投資価格に関わらず、その取得に関してオーストラリア財務省の承認を得ることを義務付ける。これは前述の「ナショナル・インタレスト・テスト」と併存する。
  • 新たに「コール・イン・パワー」(call in power)制度を導入し、投資の前後を問わず、オーストラリア財務省が、(外資買収法に基づく投資承認の申請の有無にかかわらず)国家安全保障上のリスクを高める外国投資を審査できるようになる。
  • 新たに「ラスト・リゾート・パワー」(last resort power)制度が導入され、オーストラリア財務省が、過去に承認をした外国からの投資について、その後国家安全保障上のリスクが顕在化した段階で、これを再審査できるようになる。
  • 財務省により任命される当局(Commonwealth)により管理される土地、流水、事業その他の資産の非居住者の所有権について、新たな登録システムが導入される。

これらの改正案がオーストラリア政府により承認された場合には、当該改正案が取引プロセスや取引参加者が抱えるリスクに及ぼす影響について、弊所より更なるアップデートを提供する予定である。

(同改正の詳細については、こちらを参照。)

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